【インタビュー】弁護士がなぜ宅食プロデュース?現代人が忘れがちな暮らしに寄り添うごはん

ライターのワークスタイルを考えるこのニュースレターでは、「ライターであること」を通じて出会った方々を不定期に紹介していこうと思います。ほかの方の働き方や仕事に対する思いを知ることで、自身のワークスタイルを考えるきっかけにしていただけると嬉しいです。
のりー 2022.07.01
誰でも

2021年5月にローンチした宅食サービス「うぶすな」の特徴は、現代の私たちが忘れてしまった季節のリズムに沿った食事だ。

サービスをプロデュースしたのは、福岡で弁護士をしている平田えりさん。「私自身が誰よりもこのサービスを渇望していました」と話す。

一見すると弁護士と宅食は関係ないように思える。しかし、そこには意外な共通点があった。

食事が変わると心と身体が変わる

左上が平田さん。うぶすなはお父さまとシェフ、管理栄養士のチーム

左上が平田さん。うぶすなはお父さまとシェフ、管理栄養士のチーム

―宅食サービスに関心を持ったきっかけを教えてください。

うぶすな立ち上げには、私自身の食事に助けられた経験がベースとなっています。

大学卒業後に弁護士事務所に入った私は東京で企業のM&Aの案件を担当し、規則正しい生活とは縁遠い日々を送っていました。

そんなある日、美容室に行くと担当の美容師さんが「食事だけでも見直してみたら?」そう言って、訪問調理師さんを紹介してくれたんですね。早速、ご飯を作ってもらったら、本当においしくて。ふっと緊張が緩んでいくのを感じました。

ただ、私の場合は自宅に訪問調理を受け入れる余裕がなかったので、勤務先に弁当を配達してもらうことにしたんです。

作ってくれた旬の食材を使った食事と、心のこもった手紙をいただくうちに、少しずつ私は心と体の健康を取り戻していきました。そのときぼんやりと、こういうサービスがあったら、助かる人は多いだろうなって思ったんです。

その後、福岡に戻ったタイミングで会社を経営する父が事業承継して第一線を退くことになりました。「第二の人生をはじめるなら、人に喜んでもらえることをしたいね。」ということで、二人三脚でうぶすなを立ち上げることに。

そうした経緯があって、会社の代表は父が務めています。私はうぶすなの理念やサービスを広めるプロデューサーという立ち位置です。

五感を使ってバランスを取り戻す

うぶすなの「春ロールキャベツのトマト煮」管理栄養士とプロのシェフがレシピを考案している

うぶすなの「春ロールキャベツのトマト煮」管理栄養士とプロのシェフがレシピを考案している

―うぶすなは季節に合わせた食養生を提案しています。季節感のある食事を摂ると、どんないいことがありますか?

心と身体のバランスがとれて、感覚を取り戻せると思います。人にやさしくなって、好きな自分になれるかもしれません。

たとえばきゅうりやスイカ、トマトなど夏の旬野菜は体の熱を冷ましてくれます。季節のものにはちゃんと意味があるんですね。

また気温が下がる秋冬は、木の葉も枯れて景色は寒々しいものになります。放っておくと気持ちも落ち込んでしまいますが、オレンジ色を見ると温かく、ほっとしますよね。なので、秋や冬のメニューにはオレンジ色を添えてみようなど、季節に合った食を意識する。

すると自分自身が大きな自然の摂理の中で生かされていることに気づき、なんでもないことがありがたく感じられて、暮らしに彩りを添えてくれると思うんです。

私の場合、仕事に集中するとどんどん行き詰まって来るんですね。いろんなことを考えていると、自分の中にある器から水が溢れ出しそうになる。思考がちゃんと回らないというか。

そんなとき、私はお寺に行きます。その習慣は中学生の頃から続いていて、お寺で住職さまとお話ししたり、境内の木のにおいを嗅いだりする。そうすると心の中にある器が広がって、中の水が溢れずに済む。そんな感覚があったんです。

その体験を日々に落とし込むなら?そこで思いついたのが食でした。食事は今日食べたら、明日食べないというわけにはいきませんよね。食事のタイミングで自分をいたわったり、俯瞰して見られるようになれば、行き詰まり感が和らぐのでは、と。

だから、うぶすなは口にすると笑顔になれる、ふっと緊張の糸がほどける食事をコンセプトにしています。

仕事はやりたいことを実現するためのツール

―平田さんはお子さんも小さいので、手がかかります。弁護士の仕事とは別にうぶすなを立ち上げたのは、どのような思いからでしょうか?

私自身が食に助けられた経験があって、うぶすなのようなサービスがあったら心や身体を壊さずに済む人がいると思ったからです。

私は職業とは自分がやりたいことのフック、あるいはツールでしかないと思っています。実は弁護士という仕事もそのひとつ。原点にあるのは、誰かの役に立ちたいということなんです。そのことに気づいたのは、中学時代から続けてきたお寺での問答でした。

もうひとつは「人に喜んでもらえることをしたい」という父の生きがいをつくるためでもあります。

仕事には生活を安定させるという目的もありますが、そのためのツールは何本あってもいいと思うんです。「自分をいたわる丁寧な暮らし」を実現する方法はたくさんあって、別のアプローチもあるかもしれませんが、私の場合は食でした。

食というアプローチから誰かの役に立つことができれば、これ以上の幸せはありません。

―うぶすなのサービスは誰に届けたいですか?

自分と大切な人をいたわりたい、すべての人にお届けしたいです。

かつての私のように忙しくてまともな食事が摂れない人かもしれないし、家事や子育てが大変な子育て世代、あるいは離れた家族や友人を想う人かもしれません。

うぶすなは食事を通じて、森の中で風を感じるようなひとときをお届けできればと考えています。生活の一部にとりいれてもらえると嬉しいです。

***

「仕事はやりたいことを実現するためのツールでしかない」という言葉に、私も大きくうなづいてしまいました。

自分の強みと興味を掛け合わせるという考え方は、どんな仕事にも通じます。その上で、「人が喜ぶこと」を自身の力に変えていく平田さんは多くの人に愛されているのだろうなと感じました。

不定期にはなりますが、ライターであることをきかっけに出会った素敵な方々を、これからも紹介していきます!

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