変化を味方に。教育が地域の未来をつくる

世界的半導体メーカー・TSMCの進出で注目を集める熊本。しかし、地域の未来を左右するのは、経済効果だけではない。世界トップクラスの研究者を惹きつけ、定着させるカギを握るのは、実は「子どもの教育環境」なのだ。
のりー 2025.01.18
誰でも

📝今週のテーマ:変化を味方につける

こんにちは、のりーです。今週は、熊本の事例を通じて、私たちの暮らしと働き方の新しい可能性を探ります。

神奈川出身の私は、2016年に家族とともに熊本に移住しました。2人の子どもを育てながら、この地で過ごした日々で、私はある確信を持つようになりました。

それは「教育」が、私たちの暮らし方、働き方を大きく変える力を持っているということです。

良質な教育環境は、子どもたちの学びの場というだけではありません。新しい知識や技術が集まる場所には、自然と人が集まり、イノベーションが生まれ、新しい仕事が創出されます。

そして、その過程で私たち大人の学び直しも始まります。教育は、暮らしと仕事の可能性を広げる触媒なのです。

TSMCの進出を機に、熊本は大きな変化の時を迎えています。しかし、これは一地方の話ではありません。グローバル化やデジタル化が進む中、誰もが「学び続け」「変化を味方にする」ことを求められる時代になっています

そこで変化をチャンスに変えようとする熊本大学の取り組みを取材しました。教育を通じて、暮らしと働き方をどうリデザインできるのか。共に考えていきましょう。

✨️九州NOW:1.1兆円超の経済効果だけじゃない。熊本、国際化で問われる子どもの教育

「外国人研究者の採用・定着にとって、子どもの教育環境は決定的に重要です」と熊本大学人社・教育系事務課長の岸さんは説明する。

「日本人と異なり、外国人研究者の多くは家族帯同が基本です。これまで熊本大学では、子どもの教育環境の問題から、福岡からの通勤や、家族を母国に残しての単身赴任を選択するケースもありました」。

台湾人の家族帯同の文化については、台湾出身で日本在住8年の馮(ヒョウ)さんも指摘する。

「台湾では家族と一緒に住むのが一般的。子どもと離れて暮らすことは考えにくい文化です」。この文化的背景は、TSMC赴任者の多くが家族帯同である事実とも一致する。

熊本県の在留外国人数は2023年に2万人を超え、前年から1700人増と全国で最も高い増加率を記録した。TSMCからは約750人の従業員とその家族が台湾から移住し、100〜200人の子どもたちの教育環境整備が喫緊の課題だ。今後は半導体関連企業の進出も予想され、外国人居住者の更なる増加が見込まれている。

公教育と国際教育の新たな可能性

国際クラスの特徴は、公教育の枠組みを維持しながら本格的な国際教育を実現する点だ。

「国語と道徳以外の教科を英語で教えるイマージョン教育を通じて、英語力だけでなく、国際的な視野と思考力を育てることを目指しています」と岸さん。

この取り組みは、単なる英語教育の強化とは一線を画す。日本の学習指導要領に基づきながら、英語による教科教育を実施することは、日本人と外国人子女の両者が、将来の進路選択の幅を狭めることなく国際性を身につけることにつながる

公教育で将来の進路選択が広がるワケ

なぜ国立大学の付属校が国際教育に踏み出すのだろう。たとえば、インターナショナルスクールの場合、国際バカロレア等の資格取得には有利だ。しかし日本の高校進学には別途対応が必要となることもある。一方、学習指導要領に基づく教育なら、日本国内での進学にスムーズに対応できる。

実際、熊本県内の外国人家庭の中には、当初インターナショナルスクールに通わせていたものの、その後公立学校に転校するケースも出てきているという。

「せっかく日本にいるので日本の文化を学ばせたい」という保護者の意向や、費用面での負担の少なさも、公教育を選ぶ理由となっている。

特に、長期滞在を視野に入れている家庭にとって、日本の教育システムへの参加は重要な選択肢となる。

公教育を重視する台湾人

興味深いことに、公教育による国際教育という方針は、台湾人家庭の教育観とも合致する。

「台湾では公立学校の方が評価が高いんです」と馮さん。「特に高校や大学は、良い学校のほとんどが公立です。私立は学費も高く、『お金持ちしか行けない』というイメージがあります」

また、台湾では子どもの頃から複数の言語を学ぶこともめずらしくない。「これは周囲を大国に囲まれた台湾の地政学的な状況と密接に関係しています。言語を学ぶことは、将来の可能性を広げることに直結すると考えられているんです」と馮さんは語る。

英語による教科教育と日本の教育システムを組み合わせることで、グローバルな視野と国内での進路選択の両立が可能となるのだ。

変わる企業誘致の形

従来の企業誘致は、税制優遇や用地提供といった直接的なインセンティブが中心だった。しかし、特に研究開発機能や高度人材の誘致においては、異なるアプローチが求められる。

優秀な人材を惹きつけ、定着させるには、その家族も含めた生活の質の向上が不可欠だ。

実際、シリコンバレーやボストン近郊など、世界的なイノベーション拠点では、質の高い教育環境の整備が人材誘致の重要な要素となっている。

マサチューセッツ工科大学(MIT)周辺には、高度な理数教育を提供する公立学校が複数あり、研究者家族の定住を支えている。子どもの教育環境は、海外からの研究者や技術者が移住を決断する際の最重要項目の一つだ。特に公教育による本格的な国際教育の提供は、地域の魅力を高める重要な施策となりえる

優秀な外国人研究者の確保は、大学の国際競争力強化にも欠かせない。世界大学ランキング上位校では、外国人研究者の比率が20〜30%に達する。熊本大学も2030年までに外国人教員比率を引き上げることを目標に掲げた

産業✕教育で描くグローバル戦略

TSMCの進出を機に、世界中から多様な人材が集まる地域へと変わろうとしている熊本は今、大きな転換点を迎えている。

九州フィナンシャルグループの試算によると、TSMCの進出に伴う経済波及効果は年間約1.1兆円。これに加え、研究開発機能の強化による知的産業の集積も期待される。

しかし、産業集積による経済効果を地域の持続的な発展につなげるには、さらなる取り組みが必要だ。

選ばれる地域となるためには、経済的インセンティブだけでなく、文化的・教育的な魅力が欠かせない。その意味で、公教育による本格的な国際教育の提供は、地域の未来を左右する重要な施策となるだろう。

💪リデザインのためのアクション

1️⃣変化の兆しを見つける

通勤・通学途中や買い物の際に、「5年前にはなかった変化」を3つ見つけてメモしてみましょう。新しい店舗、人の流れ、働き方など、どんな小さな変化でもOKです。

2️⃣自分の強みを棚卸し

休日の30分は、「自分の経験・スキル・ネットワーク」を書き出してみましょう。変化の時代、思わぬところで活きる可能性があります。書き出してみると、当たり前すぎて気づいていないことに気づくはず。

3️⃣小さな実験を始める

来週から試せる「新しい習慣」を1つ決めましょう。新しい場所での読書、異業種の人とのランチ、オンライン勉強会への参加など。変化に慣れる筋肉をつけることが目的です。

🎯次回予告

来週は、「BookPick 仕事に効く本」をお届けします。

1年の始まりに読んでおくとよい、仕事に役立つ本を厳選してご紹介します。新たな視点で暮らすと働くためのヒントがきっと見つかるはずです。

どんな本が登場するのか、お楽しみに! 

***

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